サラバ!(読書感想文)

西加奈子さんのサラバ!がとても良かったので簡単に感想を

 

おれは文庫本のこの本を読んだが、上中下巻でそれぞれちがった趣があるのが面白いな思った。

この本は男が生まれてからおっさんになるまでの長い年月を追いかけた本だ。こういう時間感覚の本も読んだことがなかった。

 

上巻はエジプトで過ごした少年時代。

海外赴任の裕福な家族の暮らしぶりを、エッセイを読んでいるみたいに楽しむことができた。

ここでヤコブという、エジプトの少年と主人公の歩は親友になる。

着飾った母親と道を歩いている時に、父親とホテルで働いているヤコブを見つけて思わず見て見ぬ振りをしてしまうシーンは共感できた。

違うコミュニティでいるときと違うキャラクターの自分を、他のコミュニティの友達になんとなく見せたくないという人は多いと思う。

 

中巻は日本に帰ってきた歩の中学校〜大学時代。

ルックスが良く良くモテる主人公は、高校の文化祭でDJを披露し、見にきていた女子校の生徒に話しかけられ付き合うことになる。

大学に入り、快楽に溺れ放蕩生活のようなことをしていた時期もあったり、イケてるCDショップで働きながら又々可愛い彼女がいたり彼の最も華やかな時代だ。

彼はCDショップでポップを書いているうちに、フリーライターのような仕事もこなすようになった。

クリエイティブな仕事をしている人たちにインタビューをし、記事にする仕事に彼は満足していた。

自意識にまみれた青春小説として読むことができた。

 

下巻はおっさん時代。

彼は若ハゲになった。

ここで面白いのは、年々彼と付き合う女のランクが下がっていったことを彼が恥じる一節だ。

女のランクという表現はリアルだ。最初からモテなかった人間ならいい。だけど彼はいつも学校一のレベルの女と付き合ってきた。モテる人とモテない人の対比ではなく、同一人物の時間による対比のほうがクる。

小学校の時、イケてるグループにハブにされた人を受け入れるちょっとおとなしい子のグループがあった。おとなしい子のグループの子は別に自分の所属するグループのランクなんてことは考えない。でも昨日までイケてるグループでぶいぶい言わせていた男の子はなんだか自分の価値が下がってしまった気がするのだ。

 

主人公の歩はおれに似ている気もするし、おれの友達の彼にも似ている気がする。

 

でも物語の最後で歩はちょっとだけ救われる。

最近なんかなあという人に読んでほしい。